
孫市は必死で戦っていた。戦況はかなり不利だが、まだ降伏する気はない。こういう時はあれだ、一発気合いを入れるに限る。
…せーの。
「うにょ〜っ!!」
突然発せられた奇声に、一同はテレビに向けていた視線を炬燵の一角に移動させた。そこには腰から下を炬燵に埋め、上半身に真っ赤なフリースの膝掛けをかけて横になっている孫市がいる。
「…何でぇ、寝言かよ」
とっくに眠ってしまったかと思っていた五右衛門は、そう呟いて視線をテレビに戻した。
が。
「ねごととちゃう〜」
むくり、と起き上がった孫市は不服そうである。が、それ以上に眠そうで、今にも座ったまま眠ってしまうのではないかと思う位だ。
「まだ頑張ってたのか?」
幸村はゆらゆらと揺れている孫市を抱き上げ、膝の上に座らせた。ぴたぴたと赤いほっぺを撫でられて、孫市は煩そうに首を振る。
「ことしこそみんなととしこしするってゆうてるやんか…」
「あと3時間寝たらどうだ? 起こしてやるから」
「年越しソバ、出来ましたえ? …あら孫ちゃん、まだ起きてたん?」
ふん。幸村を座椅子代わりにしたまま、こっくりと頷いた孫市であった。どうやら食べ物の名前を聞いた途端、八割がた目が覚めたらしい。
「ぼくもとしこしそばたべる〜」
「ちゃーんと孫ちゃんの分もあるから」
阿国の持って来た盆の上には丼が三つ。五右衛門と幸村と阿国の前にそれが並ぶと、阿国はさっさと座ってしまった。
孫市の前には幸村の丼しかない。話が違う、と抗議しようとしたその時。
「ほれ、孫市の分」
大きな手が小さな丼を孫市のすぐ前に置いた。そして孫市の丼の3倍くらいあろうかという大きな丼を持った慶次は、孫市がいなくなって空いた一角に腰を下ろす。
「それでは皆様ご一緒に」 一同ぴたりと手を合わせ、声を揃える。
「「「「「いただきます」」」」」
***
満腹になると睡魔の勝率は自然と高くなる。孫市は慶次の膝の上ですうすうと寝息を立てていた。炬燵の上にはみかんの皮が3つ。
「…やっぱり保たなかったねぇ」
間もなく紅白歌合戦も終了である。長いまつげにくっついたフリースの毛玉を取ってやりながら、慶次は滑らかな頬をぐりぐりと撫でる。だが先ほどとは違い、一向に目を覚ます気配はない。
「ゆく年来る年始まったら起こしたげましょ」
うふふ、と笑う阿国は取れかかっていた孫市の髪の赤いゴムを外してやった。
大晦日ネタ。それでは皆様良いお年を〜!