「なあけぇじ〜」
 縁側で昼寝をしている慶次の腹の上に、どかんと荷重がかかった。とはいえ高々子供の体重である。おえ、と乗っかった孫市と乗っかられた慶次の声が揃う。
「んー?」
 手の甲でごしごしと目を擦っている慶次に、その腹の上に交差するように腹這いになった孫市は問題発言をした。
「あかちゃんでけてん」
 起き抜けの呆けた頭に衝撃の告白である。が、孫市の表情はあくまで真面目だ。ということは嘘ではないということである。
「…誰に」
 孫市にではないのは勿論だが、六何の原則というのは物事を把握するために大事だ。特に情報を断片的に話す癖のある孫市相手には、こっちから聞いてやらないといつまでたっても話が見えなくなる虞がある。
 孫市は、訊かれたことには正確に答えた。
「むに〜に」
「…またか」
 むにーは近所の野良猫である。ちょっと太り気味だが、愛想の良い雌である。むにー、と鳴くのでこの家ではむにーと呼ばれている。ちなみに名付け親は阿国である。
 実は彼女は秋にも子猫を5匹産んだ。しかもこの家の納屋で、である。最終的には5匹とも里親を見付けて見事に片付いたのだが、ちょっとした騒動でもあった。
 そのむにーが、このくそ寒いのにまた妊娠したと云うのか。その逞しさに半分あきれながら、慶次は斜めになった孫市の帯を結び直してやりながら訪ねてみた。
「で、もう生まれたのかい」
「ふん。あかちゃんろくひきおんねん。かわいいねん」
 えへ、と大きな目が糸のように細くなった。慶次としては生まれたての子猫よりこの笑顔の方が何百倍も可愛いと思うのだが、孫市は小さな毛玉のような子猫たちを思い出したのか、あらぬところを眺めつつふへふへと思い出し笑いをしている。
「あかちゃんてええなぁ…」
 孫市の手は、いつの間にか両手で水をすくうような格好になっている。どうやらむにーは孫市に子猫を触らせてくれたらしい。
 実はこれがむにーの手で、生まれたてのわが子をちょろっと人間に触らせてやり「可愛い」と思わせる事で、自分で育てなくともわが子の将来が安泰になることを知っているのである。
 慶次は腹の上でふへふへしている孫市を抱き寄せた。なにすんの〜、ともじょもじょ逃れたがる孫市をぎゅうと抱きしめ、慶次は再び目を閉じてから宣言する。
「昼寝の時間だ。猫の子の続きは昼寝の後」
 どうやら放してもらえそうもない事を悟ったのか、孫市はひとつ大仰な溜息をついた。
「…けぇじはほんまにおひるねすきやなぁ」
 しゃあないからつきお〜たるわ。そう云いながら今度は寝心地の良い位置を探るために暫くもぞもぞと動くと、孫市は大人しくなった。








 前田組はみんなお昼寝大好き。