外は雨。縁側を、カタツムリがのんびりと這っている。そして、それをじっとみつめる一対の視線。


***


「…なあ孫市、何やってんだ?」
 縁側にしゃがみ込んで丸くなり、時折じわりじわりと左に横移動をする孫市の後ろ姿を見ていた慶次は見かねて声を掛けた。
「ん〜」
 一応生返事をしたものの、孫市はやっぱり動かない。慶次は筆を置き、ふうと溜息を吐いてから立ち上がる。ひょい、と肩越しに覗いてみると、小さいカタツムリが左を向いて進行中であった。孫市は大きい目を見開いて、その姿を懸命に見つめている。
「でんでん虫かね」
「ん〜」
 カタツムリは特に変わった動きをするでもなく、這った軌跡を残しながらただゆっくりゆっくり進んでいく。さして面白くもない光景に、慶次の悪戯心がむくむくと湧き起こる。
「でんでん虫もいいが、俺と遊んじゃくれないかねぇ」
「あとで」
 にべもない。そこで、貝殻のような小さい耳朶をこちょこちょと弄びつつ食い下がる。
「今がいい」
 ようやく、耳朶に絡む指を払いながら孫市が振り返った。
「…けぇじはおとなやのに、ほんまにわがままやなぁ」
 心底呆れた、というその口振りは、大人になってからのそれと全く変わらない。その事に気付いた慶次が思わず笑うと、孫市は小さな肩をすくめてみせた。
「しゃあないなぁ。じゃあ、なにしてあそぶ?」
「そうさなぁ」
 慶次は文机を部屋の隅に押しやりながら、ニヤリと笑った。
「でんでん虫ごっこでもやるかい?」


***


 己の真似をして腹這いになり、もぞもぞと動きはじめた大小一対の人間のことなど、カタツムリにとってはどうでもいいらしい。ひたすらに、雨に濡れた紫陽花の葉を目指して前進を続けている。

 雨はまだ、やむ気配もなく降り続いていた。







 ひとことメールフォームを送信すると出てくる画面に置いていたモノ。「次へ」とありますが、続き物ではありません。

 本編でちびが政宗に言っている「でんでんむしごっこ」がこれ。慶次はただ遊んで欲しかっただけのようです。
 子供って、ありんこの行列とかをじーっと眺めるの好きですよね。